Digital Gadget #94

■ コンピュータグラフィックスの祭典 SIGGRAPH 2006 [前編]

 ロブスターの町ボストンでみかけた

 アート的ガジェット、先進的ツール編


7月30日から8月3日の 5日間、 コンピュータグラフィックスに関する世界最大の学会・展示会である SIGGRAPH 2006 が開催されました。

今年の開催場所はロブスターで有名な米国マサチューセッツ州ボストンです。 プレゼントグッズもロブスター 街のレストランでも安価で巨大なロブスターを堪能した参加者も多かったことでしょう。

久しぶりの東海岸での SIGGRAPH は、 世界 80ヵ国から約20000人の参加者と、約300社の 出展がありました。 今年の出展者の特徴としては、今年初めて出展する新しい企業が多かったこと、 Google が初めて出展していたことが印象的でした。

SIGGRAPH 2006 公式サイト http://www.siggraph.org/s2006/

昨年の西田教授の Coons 受賞に続いて喜ばしいことに今年は東大の五十嵐健夫助教授が Significant New Researcher Award を受賞しました。 この賞は、新しい分野に関して革新的な研究開発を行い、 これからの活躍と業績を期待される若手の研究者に贈られるものです。

また会期中の特徴として今年初の試みがありました。 それはいくつかの論文発表の様子が次世代の超高速ネットワーク Internet2 経由で、 東京へ高画質で中継されたことです。 この試みは来年以降も継続され、日本側で行われるセッションを米国に 中継したり、将来的には SIGGRAPH で開催される すべてのセッションを世界各国に中継することを計画しているそうです。


■ Emerging Technologies

SIGGRAPH の目玉展示でもある エマージング・テクノロジーズ(新興技術)は、 最新技術を駆使し、未来を予見した研究段階の技術を用いた展示です。 まるで近未来の SF映画を見ているような不思議なデバイスから、 すぐに商品になって売り出して欲しいものまでが数々展示されています。 今年の特徴としては、アート的な作品が多かったことです。 逆にアートギャラリーの展示も技術的に興味深いものもあり、 展示会場の構成もあいまって、両者の境界線があいまいになってきた 印象を受けました。また、日本からのエントリーも数多く見受けられました。

■ Morphovision

http://www.nhk.or.jp/strl/morphovision/

メディアアーティスト岩井俊雄氏と NHK技研による作品。 上部に設置されたプロジェクターが特定のパターン模様をもった スリットを経て高速に回転するおもちゃの建物を照射します。 固形物だったはずの建物が、摩訶不思議な形状に変化していきます。 現在世の中に存在する機材では、限界があるが、 将来的には、この原理を用いて、自由な形状を表現できる立体テレビのような ものを作りたいそうです。

■ DigiWall

http://www.digiwall.se/

一見すると室内用ロッククライミングの施設に見えますが、 一つ一つの突起が強力な LEDで光ります。登る方向を示唆するといった普通の 用途の他に、テニスゲームのようなテレビゲームのフィールドとしても 用いられていました。The Interactive Institute (スウェーデン) の作品です。

■ Deskrama

http://cat2.mit.edu/takehiko/

机の上に描かれた平面図の上に液晶ディスプレイを立てると、 立てた場所の断面図がディスプレイの上に描かれます。 建物の構造をこと細かにインタラクティブに把握することができます。 建物の構造を知るための覗き窓風です。Deskrama は DIGITARAMA という さらに大掛かりなシステムを手軽に使えるようにしたバージョンです。

■ True 3D Display

http://www.burton-jp.com/

True 3D Display は空気にレーザーを照射してプラズマ化し光らせるという 仕組みを利用した立体表示ディスプレイです。 特殊なスクリーンも、特殊な眼鏡も必要の無い、 本当の意味での三次元ディスプレイです。 解像度は荒いながらも、空中に立体的な光が浮かんでいる驚きの展示でした。 さらに機器が動作する時のジリジリパチパチといった巨大な音も驚きの展示でした。

■ Robo Topobo

http://tangible.media.mit.edu/projects/RoboTopobo/index.php

MIT Media Lab. 石井教授が率いるタンジブルグループからの展示。 それぞれの部品それ自身が動きを記憶することができる未来のブロック。 ゲームコントローラをつないで動きをコントロールすることもできる。 複数接続すると、より複雑な動きを表現する生きているようなブロックです。 他にも MIT Media Lab からは数多くの未来的デバイスが発表されていました。

■ Multi Touch Interaction Wall

http://mrl.nyu.edu/~jhan

複数の箇所の入力を把握できるタッチスクリーンを用いたプレゼンテーション。 以前から YouTube 等で話題になっていたデバイスの展示です。 タッチスクリーンということ自身はそう珍しいものではありませんが、 両手を使った各種の操作は、映画マイノリティリポートに出てくる未来の コンピュータの様でした。 その上、表示されるユーザインタフェースのデザインのクオリティが圧倒的に高く、 強烈な印象として残るものでした。ただし、スムーズな操作には 慣れが必要そうです。

■ Fabcell

http://idl.sfc.keio.ac.jp/project/fabcell/

未来の衣服に使われるであろう、温度によって色の変化する布。 液晶の色変化の原理を活用しているそう。 ウェラブルファッションと言えば、LEDがピカピカといった衣服から、 Fabcell の持つさらに先進的な未来の布としての意義は大きな期待が持たれる。

■ Submerging Technologies

http://www.merl.com/people/dietz/

センサー技術を用いて、水面に指をつけると三角の魚が逃げ出すような インタラクションの行える作品。手を近づけると噴水の大きさが 手の動きにあわせて変化する作品。水流を遮ることで楽器になるデバイスが 展示されていました。

■ AR Tennis

http://www.hitlabnz.org/

携帯電話のカメラ機能を用いた AR(Augmented Reality:拡張現実感) テニスゲーム。 Nokia の市販されている携帯電話だけで実現しているところが注目を浴びていました。

■ VoodooIO

http://ubicomp.lancs.ac.uk/index.php/11/

VoodooIO は、様々な電子部品をボードに差し込むだけで、様々な電子回路、 入出力インタフェースが構築できるデバイス。 VoodooIO によって、さらに広範囲にコンピューティングの世界が広がることが 期待される。

■ MOVE

http://ahieronymi.net/works/move.html

デジタル影踏み。体全身を使って、床に投影された映像との インタラクションを楽しみます。6パターンほどの動きの違いを楽しむことができる。



今年の印象的な出来事は Google の展示ブースでした。 Google は最近統合した Keyhole を祖先とする Google Earth, 三次元ツール SketchUp の紹介と展示を行っていました。 また、求人活動を強力に推し進めていました。 普通なら Google が求める人材は、検索関連技術や、 言語解析など、一見 SIGGRAPH とは全く関係ないように思えます。 ここで Google が求める人材は、SIGGRAPH に多く参加されているであろう、 ユーザインタフェース専門のデザイナ、ユーザインタフェースエンジニアでした。

SIGGRAPH の本分は学会であり、毎年多くの先進的な論文が発表されます。 今年は昨年よりも少し減り、86 本の論文が採択されました。

SIGGRAPH 2006 発表論文一覧 (Tim Rowley氏による非公式なもの) http://trowley.org/sig2006.html

SIGGRAPH で採択される論文は、純粋なコンピュータグラフィックス研究に加えて、 画像が動画像のイメージ生成/操作など実務に密着したものなど 多岐に広がってきました。 一方、革新的な業界にブレークスルーをもたらす研究開発は数少なく、 今までにあった技術を改良した、焼き直し的なものも見受けられます。 ある組織に所属する研究者にとって論文が採択されることが重要であり、 なかなか冒険できないという要因があるのかもしれません。

最近人気のフル CG 映画「Cars」の監督、 ジョン・ラセター氏の言葉を引用します。

The art challenges technology and technology inspires the art.

 芸術はテクノロジーの限界に挑み、テクノロジーは新しい芸術を生み出す。

来年の SIGGRAPH 2007 (http://www.siggraph.org/s2007/) は再び西海岸に戻り、San Diego で開催されます。 SIGGRAPH から登場するテクノロジーが 続々と新しい芸術を生み出して欲しいものです。



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