Digital Gadget #95

■ コンピュータグラフィックスの祭典 SIGGRAPH 2006 [後編]

 ロブスターの町ボストンでのデジタルガジェット的視点


2006年7月30日〜8月3日の 5日間、 コンピュータグラフィックスに関する世界最大の学会・展示会である SIGGRAPH 2006 が開催されました。先月号に引き続き デジタルガジェット的視点で捉えた数々の展示・発表をご紹介しましょう。


■ Art Gallery

アートギャラリーはコンピュータグラフィックス、 コンピュータを使ったアート作品、インタラクティブアートなどの 作品展示・発表の場です。 今年のテーマは "Intersections (交差)" であり、 アートはメディアやテクノロジーなどとの交差によって作品が生まれるとのコンセプトでした。 今年の特徴としては、アートギャラリー専用のステージが設けられたことです。 パフォーマンス作品の発表や、ギャラリー内の展示をアーティスト本人とともに、 ステージでじっくりと観ることができるようになりました。 応募総数 1053作品の中から 149作品が選出され、世界 15ヵ国から 107名のアーティストが参加しました。

また、特別イベントとして CGアーティスト達に大きな影響を与えた Charles A. Csuri 氏の特別展が併設されました。 彼の 1963年から 2006年までの作品が時系列にそって展示されていました。 1960年代初期の作品はなんと IBM 7094 とプロッターで描画した作品です。

■ electric sheep / Scott Draves

http://electricsheep.org/

electric sheep は SETI@Home (http://setiathome.ssl.berkeley.edu/) のアート版 ともいえるプロジェクトです。 世界中に分散したパソコンの余剰パワーを用いて、 高精細なアート画像をレンダリングするプログラムです。 プログラムはスクリーンセーバとして動作し、手軽に参加することができます。

■ Moderation / Zack Booth Simpson

http://www.mine-control.com/

Moderation は床面に広がったデジタルな水面です。 床面に投影された水面を歩くと、足下の周辺に植物が生まれ、柔らかに広がっていきます。 作者は映画「もののけ姫」の作品世界に影響されたそうで、 アニメーションの世界観をデジタル技術で忠実に再現していました。

■ electric MoOns / Christopher Bauder

http://www.electricmoons.com/

electric MoOns は今年の会場で一際目立つ、もっとも大きな展示作品でした。 デジタルで制御された動きと色合いをコントロールされた風船群が ゆらゆらとゆったりとした動きで立体的な造形物を形作っていました。 不安定な動きの風船が、あるタイミングで整然と並び揃った瞬間は鳥肌ものでした。

■ Bion / Adam Brown & Andrew Fagg

http://www-symbiotic.cs.ou.edu/projects/bion/

Bion は人工生命的なアプローチを取った 青い光の美しいインタラクティブ作品です。 一つ一つのセンサー付き青色LEDが、近づく人の動きに応じて光りと音を変化させます。 Bion に満たされた空間を歩くことによって、大きな生命体に包まれているような 不思議な感覚が得られる作品でした。

■ Media Mirror / Jefferson Y. Han

http://mrl.nyu.edu/~jhan/mediamirror/index.html

Media Mirror は約200チャンネルの ケーブルテレビ放送をリアルタイムに取り込んで映像をモザイク表示する作品です。 写真画像でモザイク画像を作成するものはよく見かけますが、 実際に放送されているテレビ映像を元にしていることによって、 メディアというものが示す圧倒的な迫力を感じさせる作品でした。

■ Thermoesthesia / Kumiko Kushiyama

http://www.jec.ac.jp/news/2006/060824_siggraph_rep.html

映像とともに温度を感じることのできる作品です。 表現される映像は「成長する植物」「氷」「雪の結晶」といった 温度と密接に関係した映像とともに「冷たさ」といった触覚に訴える作品でした。

■ little_one / John Slepian

http://www.johnslep.net/images/little_oneCU.html

little_one はベビーベッドにおかれた、デジタルな表現で表した赤ん坊です。 展示会場では、本当の赤ん坊が little_one を観ながら不思議そうな顔をしていました。

■ spotlight / Orit Zuckerman

http://web.media.mit.edu/~orit/spotlight.html

spotlight は人と人との相互関係や、「注目」といった行動を素材とした MIT Media Lab の教授達16人のポートレイト映像です。 まるで小さなディスプレイの中に人物が生息しているかのような 不思議な社会的感覚をもたらす作品でした。



■ 論文集より

SIGGRAPH の本分は論文発表 (Papers) であり、 今年も数々の興味深い論文が発表されました。 全体で 474編の投稿があり、その中から 86編が採択されました (残念ながら今年は日本から採択された論文はありませんでした)。 全体的に、伝統的な三次元CG技術の研究よりも 実画像を用いた応用画像処理が流行りであるといった印象を受けました。

SIGGRAPH 2006 論文集一覧
http://trowley.org/sig2006.html

■ Procedural Modeling of Buildings

http://www.vision.ee.ethz.ch/~pmueller/wiki/CityEngine/Documents

広大な町並みを指定したルールの枠組みの中でモデリングするアプローチです。 ゲームなどで実際には無い町並みのマップを自動生成するような時に有用な技術です。

■ Color Harmonization

http://cg.cs.tu-berlin.de/~sorkine/ProjectPages/Harmonization/

調和的に美しい色合いを導き出すアプローチです。 画像合成をする際に背景画像の色あいを、元の色調を崩さずに より調和のとれた調整を行うことが可能です。

■ Photo Tourism: Exploring Photo Collections in 3D

http://phototour.cs.washington.edu/

Microsoft Live で概要が公開されている Photosynth (http://labs.live.com/photosynth/) の ベースとなるアルゴリズムです。 大量に撮影した風景写真、建物写真から、三次元空間を再構成する アプリケーションの紹介です。

■ Photographing long scenes with multi- viewpoint panoramas

http://grail.cs.washington.edu/projects/multipano/

複数の視点から撮影した大量の写真や、移動しながら撮影した動画を元に、 長大なパノラマ映像を生成するアルゴリズム

■ Hybrid images

http://cvcl.mit.edu/hybridimage.htm

一つの画像に2種類の画像を閉じ込める技術。焦点を変えてみることによって、 2種類の画像を切り替えて見ることができる。 メガネをかけている人は、メガネを外してみると、一目瞭然で2種類の画像を把握できます。 (サンプルの写真はメガネを外す、もしくは遠くから観るとバイクに、 近くから見ると自転車に見えます)

■ Flash Matting

http://research.microsoft.com/~jiansun/

フラッシュ撮影された写真と、フラッシュ無しで撮影された写真を元に 中心となる画像をくりぬいたマスク画像を自動作成する技術。

■ Removing Camera Shake from a Single Photograph

http://people.csail.mit.edu/fergus/

手ぶれ撮影してしまった一枚の写真から カメラの動きを想定して精細な画像にする技術。 ただし被写体ぶれ(スポーツ選手の激しい動きなど)には対応していません。 手ぶれ防止デジカメも数多く販売されていますが、 撮影後の写真からぶれを除去できれば、昔撮った写真でも有用です。

■ Drag and Drop Parting

http://www.cse.cuhk.edu.hk/~leojia/all_project_webpages/ddp/drag-and-drop_pasting.html

画像編集の際の切り貼りする範囲の最適化し、 曖昧な範囲選択から、最適な切り取り合成の範囲を自動的に判別します。 少々無理目の絵柄同士も違和感無く合成することができます。

■ Manga Coolorization

http://www.cse.cuhk.edu.hk/~ttwong/publication-favorite.html

白黒で描かれた漫画画像に自動彩色するシステム。 漫画の場合、同じ色合いのところは同じ網線やグラデーションパターンが 使われていることを元に彩色範囲を自動判別することができます。



以前から SIGGRAPH で発表された論文はインターネット上の 各研究者のホームページで読むことができました。 今年の大きな特徴は YouTube (http://youtube.com/ や Google Video (http://video.google.com/) で各種インタラクティブアート作品が 実際に動作するところをムービーで観ることができる点です。 ここで紹介した各作品のタイトルや作家名を元に YouTube や Google Video で ライブ感のある映像を探してみてください。

来年の SIGGRAPH 2007 (http://www.siggraph.org/s2007/) は再び西海岸に戻り、2007年8月5日〜9日の間、米国 San Diego で開催されます。 SIGGRAPH から登場するテクノロジーが 続々と新しい芸術や役立つ商品を生み出して欲しいものです。



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