来年 SIGGRAPH 2008 のピンバッジ


Digital Gadget #107

コンピュータグラフィックスの祭典 SIGGRAPH 2007 [後編]

〜港と入江の町サンディエゴでみかけたガジェット、技術編

先進的な技術編(アートと論文)

8月5日から8月9日の 5日間、 コンピュータグラフィックスに関する世界最大の学会・展示会である SIGGRAPH 2007 が開催されました。 先月号に引き続き デジタルガジェット的視点で捉えた数々の展示・発表をご紹介しましょう。

■Emerging Technologies

SIGGRAPH の目玉展示でもある エマージング・テクノロジーズ(新興技術)は、 最新技術を駆使し、未来を予見した、主に研究段階の技術を用いた展示です。 今年は Microsoft Surface (http://www.microsoft.com/surface/) が 2台出展されており、 洗練されたユーザインタフェースを見ようと、いつも黒山の人だかりでした。 また、日本からのエントリーも数多く見受けられました。

●An Interactive 360 Light Field Display / Andrew Jones USC Centers for Creative Technologies

http://gl.ict.usc.edu/Research/3DDisplay/

An Interactive 360 Light Field Display は 360度、どの方向からも 見ることのできる表示装置で、今年の E-Tech Award を受賞した展示作品です。 FPGA を用いて特殊な DVIインタフェースが用いられています。 1秒間に 5000枚、1.25度ごとに毎秒 20回映像が更新されるそうです。

●SCP Camera / Xavier Gouchet, University Paris 8 Dpt A.T.I.

http://www.scpcamera.com/

SCP Camera はバーチャルリアリティの空間をカメラマンが演出可能とする技術です。 カメラの絞り、ピントを合わせる位置、 被写体を追いかける操作など、カメラマンの経験が生かされる仕組みです。 低解像度の映像でシューティングし、後に高解像度レンダリングを行うことも可能です。 従来のカメラマンの技術を CG の世界でも生かそうという興味深いアプローチです。

■ BYU-BYU-View / The University of Electro Communications

http://www.hi.mce.uec.ac.jp/inami-lab/ja/projects/BBV/

BYU-BYU-View は「風」をインタフェースとしたコミュニケーションデバイスです。 息を吹きかけるとネットワーク経由で向こう側の風車が回ったりと、 「風」を伝達することができます。実際のセンシングは風によって温度が低下することを 利用し、温度センサーが用いられているようです。

■ Art Gallery

SIGGRAPHにおけるアートギャラリーはコンピュータグラフィックス、 コンピュータを使ったアート作品、インタラクティブアートなどの作品展示・発表の場です。 今年のテーマは "Global Eyes (世界的な視点)" でした。 テクノロジーや CG技術を通して様々な視点を持ち、 世界中がつながっている現在の世界を知ることを重要視していました。 応募総数 660 作品の中から 131作品が選出され、 世界 20ヵ国から数多くのアーティストが参加しました。

今年は招待展示として、メディアアーティストとして著名な Ingo Gunther 氏の "WORLD PROCESSOR" が展示されました。

 ● WORLD PROCESOR / Ingo Gunther  http://www.worldprocessor.com/

WORLD PROCESSOR は世界中の様々な事象を地球儀の形としてビジュアライゼーションしたものです。 例えば紛争の起こっている地域が大きく表示されていたり、経済圏の大きさで地図が描かれたり、 観た人にとって、ハッと思わせ、考えさせられる作品です。 Ingo Gunter 氏の代表的なインスタレーションであるこの作品は、 今回のテーマ "Global Eyes" にとても合致したものでした。

● The Orb (James N. Sears)

http://jamesnsears.com/projects/orb/

The Orb は LED アレイが高速に回転して球体形状の表現を行うディスプレイです。 ブラウン管テレビのように、走査線の質感は、懐かしさが感じられるものです。 またこのような球体状の表現は建築家 Backminster Fulle 氏が 1962年に構想していたものを 具現化したものだそうです。

● Qinglian Guo (Kanazawa Institute of Technology / Yiwei He)

水滴がついたガラス窓に指でいたずら描きをするといった事象を デジタルで再現したものです。指でなぞった部分だけ跡がつき向こう側の映像が透けて見えます。 そして時間が経つと再び細かい水滴でガラスが覆われたような表示に移り変わります。

● OLE Coordinate System / Jun Fujiki

http://tserve01.aid.design.kyushu-u.ac.jp/~fujiki/applications.html

OLE Coordinate System は インタラクティブな騙し絵作成ツールです。 アニメーションがループして繰り返すエッシャー風の騙し絵を手軽に作ることのできるツールです。 チョコチョコと動作するキャラクターが、動くことで、 騙し絵を通して不思議な感覚を得ることができます。

● Salad / Till Nowak

http://framebox.de/

野菜で表現された、エイリアンの CG 作品。 この作画手法は 16世紀に活躍した Giuseppe Arcimboldo の作風に インスパイアされて描かれたものです。 Giuseppe Arcimboldo 氏の作品は Wikipedia 等で見られます。 比較して楽しんでみてください。

■ 論文集より

SIGGRAPH の本分は論文発表 (Papers) であり、 今年も数々の興味深い論文が発表されました。 今年の特徴は、論文のカテゴリとして Big Images という新ジャンルが増え、 高精細な画像や動画、高解像度の画像を扱う研究が多岐にわたっていました。 また CG の基礎技術よりも、実用化を視野に入れた研究が数多く見受けられました。 今年は日本の研究者の活躍も数多く見受けられたのが喜ばしかったところです。

 ● SIGGRAPH 2007 論文集一覧  http://trowley.org/sig2007.html

● Interactive Cutaway Illustrations of Complex 3D Models / University of California, Berkeley

http://vis.berkeley.edu/papers/cutaways

伝統的な科学的・技術的イラストの表現法を使って、 複雑な三次元モデルの断面図をインタラクティブに操作し、 表示するシステムです。 今後様々な分野の技術が CGの世界に流入し、 CGの世界で生み出された技術が、様々な分野で応用されていくことでしょう。

● VideoTrace: Rapid Interactive Scene Modeling from Video / The University of Adelaide

http://www.acvt.com.au/research/videotrace/

VideoTrace は入力動画から対話的に物体の 3D モデルを作成するシステムです。 映像の中から目的のモデルを読み取って、 動画像の中でコピーしたり変形したりすることができます。 簡単な手順でリアルな三次元モデルを得ることができる、 コンピュータビジョン研究の成果です。

● Scene Completion Using Millions of Photographs / Carnegie Mellon University

http://graphics.cs.cmu.edu/projects/scene-completion/

ある画像の欠けた部分を大量の画像から似た様な画像を見つけ出し穴埋めを行う方法の提案。 最終的な判断は人間が行わなければいけないが、 的確な画像を抽出してつぎはぎし、画像の欠けている部分を補完することができます。

■ Seam Carving for Content-Aware Image Resizing

http://www.faculty.idc.ac.il/arik/

画像の中のまとまりや、特徴的な物体の形を保持したままで、 画像全体の拡大・縮小を行うことができるアルゴリズムの研究です。 普通に等倍で拡大縮小すると、変に間延びしてしまいますが、 画像の中の不要な部分や繰り返し部分、 冗長な部分を上手く扱って拡大・縮小できるのが便利な点です。 最近浸透しつつある、携帯電話・携帯端末などの小さい画面での画面表示に特に有効な技術です。 当研究の研究者は SIGGRAPH の数ヶ月後、 画像処理ソフト Photoshop の Adobe 社にヘッドハンティングされたとの噂です。

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■ これからの SIGGRAPH と CG 研究

最近の傾向としては、一本の論文につき多数の研究者が参加していることです。 実際、論文の約半数の論文が4名以上の著者によって書かれたものです。 論文への参加者が多くなることによって、 開発スピードが速くなり、アイデアやテーマに広がりを持たせることができるため、 学術系の研究者と CGプロダクションの開発者など多くのコラボレーションが行われているようです。

今年の SIGGRAPH は併設される関連シンポジウムが多かったのも特徴のひとつです。

 NPAR 2007 (Non-Photorealistic Animation and Rendering)
 Graphics Hardware 2007
 SCA 2007 (Symposium on Computer Animation)
 2007 Sandbox Symposium (ゲーム関連研究のシンポジウム)
 EDT 2007 (Emerging Display Technologies 2007)

この傾向は今後も続き、CG の応用分野である、 映画やTV-CM映像、ゲーム分野などの他に、 新たなエンターテインメントとしての CG を模索中であることを物語っています。

来年の SIGGRAPH 2008 (http://www.siggraph.org/s2008/) は 映画の街、ロサンジェルスで開催されます。 又 2008年の冬には初の SIGGRAPH ASIA がシンガポールで開催されます。 SIGGRAPH から登場するテクノロジーが続々と新しい芸術や役立つ商品を生み出して欲しいものです。



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